ドイツの昔話「黒いお姫さま」より |
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闇の姫(前編) |
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むかし、ある国の、お妃さまが、こどもが欲しいと願いました。 そのためならば、魂をも差出し、悪魔との取引もいとわないほどに。 その願いは受け入れられ、やがて愛らしい赤ちゃんが生まれ、美しい姫に成長しました。 幸せに思えた日々でしたが、ある日、姫は王様と妃に、こんな事をいうのです。 「わたしは明日、死ぬ事になっております。私を棺に入れ、毎晩見張りをひとり付けて下さい。 その人が、悪い事を一度もしたことがない人でしたら、私は生き返ることができます。」 その言葉のとうり、次の朝、姫は寝所で眠るように死んでいました。 王様と妃は、姫の残した言葉のとうり、善人であろう者を見張りにつけました。 ところが、どんなに善人だと思う者も、朝になると、首をひねられた姿で骸になっているのです。 とうとう、こうなったら一般公募です。 褒美も大きいので、国中から候補者がやってきました。でも皆、同じでした。 もう何十人の犠牲者が出たことでしょう。 ある日、貧しい村から、ひとりの羊飼いが村長推薦で、やってきました。 「無理ですっ!無理っ!」 羊飼いの若者は、村人たちに引っ張られるように姫の眠る城の塔に入れられました。 「おまえなら大丈夫だって。おまえのように人の良い。善人はいないから。」 そして、ドーンと重たい音を立て、扉を閉められてしまったのです。 「そ・・そんなぁ・・」 小さい頃は悪さもしたし、女の子のおさげをひっぱって泣かせた事だってあるし。 生きていくために生き物だって食べるし殺すし。 「絶対無理だ〜っ!」 と、叫ぼうとしたとき、奥にある棺がガタンと音を立てたので、彼は声を呑み込みました。 棺の蓋が持ち上げられ、中から人らしい影が起き上がります。 羊飼いは、とっさに柱の後ろに隠れました。 それは、墨のように黒い影の姿の姫でした。 ゆらゆらと、棺の回りを歩きまわり、なにかを探しているようです。 見つかれば殺される・・・・。 そう思いました。 見つからないように柱から柱へ身を隠し、台座の下へ潜り、最後は棺の下へ入り込みました。 姫は、ゆらゆらと探しておりましたが、やがて、棺の下の羊飼いに気がつきました。 目も口も、よくわからない影のような闇の顔が、若者を捕らえます。 その手が、若者の首にかかり、いままさに、ひねられそうになったとき、 一時の鐘の音が鳴り、 姫は、その首から手を離し、ゆらゆらと、棺に戻っていきました。 羊飼いは、その場に座り込み動けません。 「だめだ・・逃げなくちゃ。こ・・殺される・・」 なんとか窓からでも脱出しようと、出口を探していると、棺の中から声がしました。 「行かないで下さい・・・」 可憐な少女の声に、羊飼いは、はっとしました。 「お願いです。助けてください・・・」 惑わせる悪魔の声か。助けを求める姫の声か。 どちらにしても、若者は、逃げ道を失いました。 後編へ 戻る 銀の鏡TOPへ |
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