・・・・・・・・・・王子よ・・・・・私の正体を見てしまったのだね・・・・・・・・・

どうせ、おまえは始末するつもりでいたが、私の姿を見たのは許せないね。おまえも醜くしてやろう
カエルなんてどうだい?

おまえは、この先ずっと誰からも嫌われ、誰からも愛されず、忌み嫌われて過ごすのさ。
ほーっほっほっほっほっ・・・・



ここは、ある国のお城の裏庭です。 古い井戸を覗き込んでいるのは、この国の王女さま。

「困ったわ。どうしましょう。暗くて底も見えやしないわ。」
お姫さまは、お気に入りの 綺麗なマリを、井戸に落としてしまったのです。

井戸桶を落として探ってみましたが、マリが偶然入るわけも ありません。
「こうなったら、降りるしかないわね」 あらら。いけません。ドレスの裾を掴み上げました。


そのときです。

「もしもし。お姫さま、いくらなんでも無茶ですよ。」と、声がします。お姫さまは驚いて、あたりを見回しました。

「ここです。ここ。あなたの目の前ですよ」 目の前と言われて、顔を真っ直ぐに向けると、緑色の物体。
「きゃっ!」姫は思わず叫びました。「か、か、か、・・・・カエルっ!?」


カエルは、井戸の淵にちょこんと座り、ため息をつきました。
「やれやれ、こうもカエルが嫌いかね」

お姫さまは、反論します。「何いってるのよっ。好きな人の方が珍しいわよっ」

「あはは。そりゃそうだ。」カエルはケロケロ笑いました。
「ところで王女さま、お困りですね。手伝いましょうか?」

「マリを井戸に落としてしまったの。おまえの小さな体じゃ無理だわ。」と姫は言います。
「大丈夫。まかせて下さい。そのかわり、条件があります。」と、カエルが言います。


「あなたと同じ食器で食事をして、あなたと同じベットで寝せて下さい」
「なんですって?!」 
カエルが人間気分を味わいたいのかと思い、目を丸くした姫ですが、ここはまず、承知しました。

「そこにある井戸桶を落として下さい。 マリを桶に入れるから、引き上げればいいです。」

カエルはそういって、井戸に飛び込み、降ろされた桶にマリを入れました。


お姫様はマリを引き上げ、嬉しそうに言いました。
「ありがとう。カエルさん。・・・それじゃっ!」

脱兎のごとく駆け出した お姫様は、
あっと言う間にカエルを置いて行ってしまいました。

「お、お姫さまー?」
こんどは、カエルが目を丸くしました。

「やれやれ。前途多難だな」

古井戸に ポツンと とり残されたカエルは、
ため息をついて、あたまを掻きました。



ここは、お城の中。お姫さまは、カエルのことなど、すっかり忘れていました。

やがて、夕食時になり、 食事の並んだ部屋に、王様と、お后様が、座って待っていました。

「お父様、お母様、遅くなって・・・って・・!!」姫は目を丸くしました。
「なんで、あんたが、ここにいるのよっ!!」 姫が座る席に、昼間のカエルが 座っているのです。

「これは申し訳ない。あなたの お席ですね。私は、遠慮することにいたしましょう。」
カエルは、王女に うやうやしく一礼すると、椅子からテーブルの上に跳び移りました。


「いやいや。あなたが あやまる事はない。私が、そこに座るように勧めたのだからね。」
王様の言葉に、お姫様は目を丸くしました。

「ほんとうに、賢いカエルさんなのよ。珍しいお話を、たくさん聞かせて頂いたわ。」 お后様も、ご機嫌です。


「あんた。何しゃべったのよ」
「たいした話ではありません。お二人が おやさしくて、楽しく聞いて下さるので、つい調子に乗ってしまって・・」
お姫様は、目まいがしました。(なんなのよ。このカエル・・)

「聞けば姫。おまえは、このカエル殿と約束をしたそうではないか。」
「う・・・」王様に言われて、お姫様は絶句です。


「約束したとはいえ、自分はカエル。姫に迷惑ではないかと、わざわざ訳を話しに来て下さったのだぞ。
なにも、気にする事はない。もてなして差し上げなさい。」

「う〜〜・・おぼえてらっしゃい〜〜」


こうして、カエルは、姫の食器で、一緒に食事をしました。驚いたことに、カエルはマナーを心得ていました。
たのしい話をしながら、とても上手に食事をするのです。

お姫様は、眉を上げ、いぶかしげに カエルを見ながら言いました。 「あなた。何者?」
カエルは、少し驚いたようでした。

ジ〜ッと見つめる姫の顔を見て、赤くなりそうでしたが、顔は緑色なので助かりました。


「ところで、カエル殿、貴殿は、たいそう隣の国の事情にお詳しい。ひとつ、聞いてよろしいか?」
「なんなりと」 王様の言葉にホッとしたように、カエルは答えました。


「以前は頻繁に行き来をし、親しくさせてもらっていたのだが、最近どうも様子がおかしい。
それが先日、国王から親書が届いてな。近々会いたいと言って来たのだ。」

「そんな手紙が来たのですか。それは、おやめになった方が良いでしょう。」
カエルは目を丸くして答えました。

「お察しのとうり、あの国は今、よくない状態です。ご油断なさいませんように」

王様はカエルの言葉に、いたく感心しました。
「うむ。思ったとうりだ。貴殿には、もっと、ゆっくりと大切な話を聞きたいところだ。」


お姫様は、隣の国と聞いて、嫌な事を思い出しました。

何年か前に、隣の国の王子が、王様の名代で来たことがありましたが、
そのとき、あろうことか、その王子、お姫様のドレスの裾を踏んずけたのです。

(いや〜すみません。うちには姫がいないもんで勝手が分からなくて)と、しれっとしていた王子。

そうだわ。このカエル、あいつに似てるんだわ。
と、お姫様は思いました。





                                         

                           


王子や王女が、魔女の呪いで動物にされる話は、多いですが、
たくましい、庶民の場合はともかく、
呪いをかけられた王族が、呪いが解けるよう、単独で 広い行動範囲、画策して回る話は少ないと思うのです。

そういう意味で、とっても珍しい、たくましい、めげない元気な王子を想像し、気に入っています。
王女さまがまた、元気で、おちゃめで、大好きです。